救いの話
宗教の話ではありません。
幸か不幸か実家は完全な無宗教で、「お天道様は見てるよ」ぐらいしか言われた覚えはない。
生まれたときから何かを信仰しなかったことは個人的には不運だったとは思う。生まれたときからのクリスチャンが十字を切る姿は美しい。
ただ一番辛かった時に何が救いになって生き延びれたかという話。
23歳までの人生では高校生の頃が明らかに死ぬほど辛かった。
何が辛いのかも分からなかったけど死ぬしかないと思っていた。
エネルギーがあるのに死ぬことにばかり支配されていたのはやっぱり高校生の頃だ。
そういうわけで、死のうと思った。高校2年。
もう大会で負けて親父に無視されるなんてごめんだ。
強かった過去の栄光に期待されることはごめんだ。あの空気はごめんだ。
大会は3日間ある。
1日目前日にいきなりオーバードーズは怖いからまずはイブAを6錠飲んで朝完全な土色になりながら大会に行かされた。12時間で顔色は戻っていった。
あんな顔色悪くても逃げられないのか。悲しいな。そうか。
2日目前日、市販の安い薬中心に、100錠程。
レスタミンの効果もあってか、バイバイ記憶。2,3日分綺麗に無かった。
生活に戻らされてやつれた頬や棒みたいになった足が面白かった。
飯を食うと生きる価値のない自分の一部になることを恐怖していた覚えがある。
やっぱり死にたいけれどまたあんなに決意を持って死ぬのがだるいと思っていた頃に、図書室に行った。当時集中力なんて欠片もなくて本なんか読めなかったのに。
寄贈された本のコーナーを見て、中学校の頃図書委員長だった2つ上の先輩が同じ高校だったことを彼の卒業後に知った。
そこで手に取った本は『二十億光年の孤独』というやつだった。詩集だね。
- 作者: 谷川俊太郎,川村和夫,W.I.エリオット
- 出版社/メーカー: 集英社
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有名だよね。
正直それ以前はポエムなんかクソダセー誰が読むかよと思っていたけれど、開いてみると長文が読めなくなっている頭に一行ずつすっと染みて来て泣きそうになった覚えがある。
家族にも先生にも、何も訊かれなかった。言われなかった。強く止められることもなかった。教科書からも否定されてる。
なのに、まだ死なないでもいいのか。まだ読めるのか。
こんな透明度で生きていられるのか。
あのクソ真面目先輩はきっとこれで英語も勉強できる!ということで寄贈したんじゃないかと思うけれど、まったく違う形で命を救ってくれた。
これが高校生の頃の数少ない、確かな救いだった。
それからは死にたいままで、谷川俊太郎の真似をして詩を書くようになった。
学も才能もコネもないから日の目は見ないだろうけど、ずっと続けてる。
どんどん失くしていく記憶とか感情の記録として、今も自分で励まされてる。
生きてきた記録はある。透明な現象と感覚を文字や形にする。これが救いだ。